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静岡地方裁判所 昭和48年(行ウ)4号 判決 1976年4月01日

原告 堀俊雄 外八名

被告 清水市長

主文

原告堀俊雄、同長島博通、同内藤光男、同永田広太、同青木重雄、同北村修治、同大月久男の訴を却下する。

原告漆畑益己、同金沢忻二の請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告市長は、昭和五〇年四月一日付で丸徳商事有限会社との間に締結した委託契約を解除しなければならない。または、昭和四七年四月一日付で同会社との間に締結した委託契約の附属覚書にもとづき同会社との間で右昭和五〇年四月一日付契約の更新をしてはならない。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前)

1 原告らの訴を却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(本案)

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  請求の趣旨掲記の委託契約締結の経緯

(一) 清水市においては、かねて同市山原所在の塵芥焼却場および同市堀込所在の化学処理場を市営とし、これから排出される一般ならびに産業廃棄物を処理する必要を生じていた。

(二) そこで、同市の市長である被告は、昭和四六年夏ころから、内密に同市駒越所在の丸徳商事有限会社(以下「丸徳」という。)の代表取締役内田貴との間で、前記廃棄物の搬送および投棄処理の請負方を折衝し、内田をして同市宍原地内に投棄埋立処理場用地を求めさせる等して、その準備行為に着手させ、昭和四七年四月一日までにこれを完了させた。

(三) そして、昭和四七年四月一日、被告市長は、同市を代表して、丸徳との間に、廃棄物の運搬および処分を目的として、期間一年、委託料二、三〇〇万円とする委託契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

本件契約に附属する両者間の覚書(以下「附属覚書」という。)一項によれば、被告市長は、丸徳の契約不履行または事情の変更により本件契約が解除されない限り、昭和五二年三月三一日まで本件契約を更新することができるものとされている。

2  監査請求の存在

原告らは、静岡県清水市の住民であるが、同市監査委員に対し、本件契約を是正しかつその執行を停止するため、地方自治法二四二条にもとづき、必要な措置を講ずべきことを請求したが、同監査委員は、昭和四八年一月一三日付で、右措置請求はその必要が認められない旨の監査結果を原告らに通知してきた。

3  本件契約の違法事由(その一)

本件契約は、地方自治法に違反する。

(一) 本件契約は、いわゆる特名契約の方式で締結されたもので、地方自治法二三四条に規定する随意契約の方法によったものである。

(二) ところで、同条は、地方公共団体が行う売買、賃借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約またはせり売りの方法によつて締結すべきことに限定し、これらの方法のうち原則として一般競争入札の方法によるべきことを命じ、同法施行令所定の場合に限り例外的に、指名競争入札、随意契約またはせり売りの方法によることができるとし、もつて、公有財産に関する住民の経済的利益を確保し、かつ処分の公正を期したものである。

そして、同法施行令一六七条の二は、随意契約によりうる場合を限定的に列挙し、「不動産の買入れまたは借入れ、普通地方公共団体が必要とすは物品の製造修理、加工または納入に使用させるために必要な物品の売払いその他の契約でその性質または目的が競争入札に適しないものをするとき」(一項一号)等と規定している。

従つて、原則的方法である一般競争入札によつて契約を締結することが可能であり、より住民の利益を確保しうるにも拘らず、情実に左右され公正を害する虞れが大きい例外的方法によることは、同法条の趣旨を逸脱し、違法である。

(三) 被告市長が廃棄物の処理場の候補地とした清水市宍原地区には、既に岩本清江所有の同所二〇五番一山林一、二二六平方メートル(これは、丸徳が廃棄物の埋立処理のために取得した後記土地の面積に匹敵する。)を処分地として、同人の義弟岩本輝久が経営し、塵芥の収集、再生資源の回収販売等の営業を目的とする株式会社岩本商店(以下「岩本商店」という。)が廃棄物の収集、埋立処分を行つていたのである。

(四) そして、被告市長が廃棄物処理の委託を目的として後記のとおり内密かつ特別に丸徳に対して実施した指導の程度に至らない指導であつても、これを岩本商店等に実施していたならば、岩本商店等は丸徳にも増して後記委託処理基準に合致した受託者になりえたはずである。

(五) 従つて、本件委託契約の締結のためには、競争入札も十分可能であつて、かつ適切な方法となしえたはずであるから、これによらなかつた本件契約は、地方自治法、同法施行令に違反し、無効である。

4  本件契約の違法事由(その二)

仮に3の主張が認められないとしても、本件契約は、廃棄物の処理および清掃に関する法律施行令に違反する。

(一) 廃棄物の処理および清掃に関する法律(以下「法」という。)は、一般廃棄物の処理事業は原則として市町村がこれを行い、市町村は廃棄物の収集、運搬および処分を市町村以外の者に委託することができるものとし(法六条)、これを承けた廃棄物の処理および清掃に関する法律施行令(以下「令」という。)は、右委託をする場合につき、その事務の公共性に鑑み、詳細な基準を設定した。すなわち、令四条は、「受託者が受託業務を遂行するに足りる設備、器材、人員および財政的基礎を有し、かつ、受託しようとする業務の実施に関し相当の経験を有するものであること」(一号)、「受託者が法第二五条または第二七条の罪を犯して刑に処せられ、その執行を終わり、または執行を受けることがなくなつた日から起算して一年を経過していない者でないこと」(二号)、「受託者が法人である場合にはその業務を行う役員のうちに前号に該当する者がいないこと」(三号)、「受託者がみずから受託業務を実施するものであること」(四号)、「委託契約には、受託者が第一号から第四号までに定める基準に適合しなくなつたときは、市町村において当該委託契約を解除することができる旨の条項が含まれていること」(九号)と規定している。

そして、以上の規定によれば、令は、受託者が初めから右一号ないし四号所定の基準に適合しないときはこれを相手方として委託契約を締結すべきではないとする趣旨に解される。

(二) しかるに、本件契約の受託者たる丸徳には、次のような事情が存する。

(1) 丸徳の代表取締役内田は、被告市長との内密の折衝により、昭和四七年四月一日から始まる清水市の同年度の予算が成立したうえは、同市を委託者とし丸徳を受託者とする廃棄物の運搬および処分の委託契約が締結される旨の確実な保証を得、これにもとづきまず同市宍原字大内沢に投棄埋立用地を探し、昭和四六年九月二九日、望月優から、同字一八二八番畑七一四平方メートルおよび同字一八二九番畑一、二二三平方メートル(合計面積一、九三七平方メートル)を買受け、同年一一月二五日、その所有権移転登記手続を経た。

これと同時に、内田は、同年一一月ころから、過去数年来の交友である同市宍原在住の杉山宰に対し被告市長との右折衝の経緯を話して廃棄物の運搬および処分の下請負を依頼し、さらに昭和四七年二月ころ、本件契約交渉が具体化するや、被告市長との間に同年四月一日から正式に稼働する旨の約束を結んでいること、そのため投棄処理地の近くに住む杉山の支援が必要であることなどを説き、従来提示していたトラツク一台当りの運搬処理費のほかに、いわゆる面倒代として毎月相当額の金員を同人に支払う旨を提案し、同人をして一般廃棄物の運搬を一括して下請負いする旨承諾させたうえ、その業務遂行のため、同人にダンプカー等三輛を購入するよう要請し、静岡日野自動車株式会社を斡旋して、杉山の責任と負担において右車輛を購入させた。

(2) 丸徳は、昭和四〇年七月一〇日、貨物の保管業務不動産業ならびにこれに附帯する一切の業務を営むことを目的として設立された有限会社であつて、その設立目的には、一般ならびに産業廃棄物の処理業は全く含まれておらず、これを行うに足りる設備、器材、人員および財政的基礎もなく、またこれを行つた経験もなかつた。

そして、被告市長との内密の折衝が進展するや、昭和四六年一一月三〇日、定款を変更して「廃棄物の処理および清掃に関する事業」を営業目的に加えるに至つたのである。

(3) また、丸徳は、本件契約締結前の昭和四七年三月一日から同年九月二〇日までの間、知事の許可を受けることなく、産業廃棄物一、二二一トン(二、四六七立方メートル)を清水市宍原字大内沢の土地に投棄していた嫌疑により、同年一〇月一六日、法一五条(二六条)違反罪により送検されている。

(三) 以上の事実によれば、本件契約の相手方たる丸徳は、令四条一号および四号所定の委託基準に明らかに違反し、かつ、同条二号および三号の趣意に反するものである。

5  本件契約の更新

しかるに、被告市長は、本件契約の期間が満了した昭和四八年四月一日に本件契約を更新し、ついで同年一〇月一日、昭和四九年四月一日および昭和五〇年四月一日に順次これを更新し、現在同日付の委託契約が存続している。

6  請求の趣旨1記載の判決を求める法的根拠

地方自治法二四二条の二第一項一号は、「当該行為の差止めの請求」と規定しているが、これは「其ノ行為ヲ止ムベキコトヲ請求スルコトヲ得」と規定する不正競争防止法一条の差止請求の場合とその趣旨を同じくするものと解すべきである。

そうだとすると、原告らとしては、被告市長に対し、本件契約の違法を理由に、本件契約上の権利を行使し義務を履行する行為の停止を具体的に求めるためには、本件契約一一条にもとづいて、現在有効なものとして存続している昭和五〇年四月一日付の委託契約を解除すべきことを請求するか、または附属覚書一項により、昭和五一年三月三一日に終了する現在の委託契約を再度更新してはならないことを請求するほかない。

よつて、原告らは、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求の原因に対する答弁および被告の主張

(本案前)

1 地方自治法二四二条の二第二項一号によれば、同条第一項の規定による訴訟について、監査委員の監査の結果に不服がある場合は、当該監査の結果の通知があつた日から三〇日以内に提起すべきものとされているが、原告堀俊雄(昭和四八年一月一四日通知)、同内藤光男(同上)、同永田広太(同上)、同大月久男(同上)および同青木重雄(同月一三日通知)は、それぞれ通知があつた日から三〇日を経過した後である同年二月一四日に本訴を提起したものであるから、右各原告の訴は不適法である。

2 原告らが清水市監査委員に対し監査を求めた事項は、被告市長が昭和四七年四月一日に丸徳と締結した委託契約(本件契約)に関するものであつて、その際取交された覚書(附属覚書)に関するものではなく、勿論昭和五〇年四月一日に締結した委託契約に関するものでもないから、原告らは監査請求を経ていない事項について訴を提起したものであつて、本訴は不適法である。

(本案)

1 請求の原因1について

(一) 同(一)のうち、清水市において、塞芥焼却場および同市堀込所在の化学処理場を市営とし、これから排出される一般廃棄物を処理する必要を生じていたことは認め、その余は否認する。

(二) 同(二)のうち、被告が清水市の市長であることは認め、その余は否認する。

(三) 同(三)は認める。

(四) 清水市は、かねて同市八坂町所在の塞芥処理場および同市堀込所在の化学処理場を市営とし、前者において市内より収集した塵芥の焼却または破砕処理を、後者において市内の糞尿の処理をしてきたが、右処理により、前者においては一日当り焼却残灰約三〇トン、ガラス陶器くず約二〇トンが、後者においては一日当り乾燥ケーキ約二〇トンが排出される(年間合計約二二、〇〇〇トンとなる。)ため、これらの残廃物を陸上において埋立てて最終処分するほかなかつた。

このため同市は、市内北脇新田所在の民有地四、七一三平方メートルを借受けたほか、前記塵芥処理場の拡張用地として買収した三三〇、九四九平方メートルの土地を使用して、右残廃物を埋立処分してきた。

ところが、両処分地とも昭和四六年度中には飽和状態に達することが予想されたため、同市は、同年四月六日の庁議において、新たに市内高橋郷東山所在の土地二八、六四七平方メートルを清水市開発公社において買収し、これを処分地とする計画を立て、関係土地所有者と交渉を重ねたが、価格の点で難航し、同年度内に解決することは困難と予想された。

そこで同市は、併行して他の候補地を調査することとし、同年九月末ころから一〇月中旬ころまで市内を隈なく物色した結果、宍原地区に適地を発見したためその所有者を調査したところ、同地は内田貴が取得しその経営にかかる丸徳が産業廃棄物の埋立処分にこれを使用していることが判明した。

一方被告市長は、同年一一月八日ころ、助役、収入役、開発部長らを同道して現地を視察したところ、処分地として最適と認められたので、早速開発部長らに指示してその買収交渉をさせたが、内田の同意を得られず、かえつて同月下旬ころ、内田から丸徳に廃棄物の運搬および処分を委託してほしい旨の申入れを受けた。

そこで同市は、同年一二月九日、市長、助役、収入役、総務部長、財政部長、衛生部長、公害室長ら出席のうえ庁議を開き、丸徳に右委託をするか否かを検討した結果、郷東山早期買収が困難であるところから、一時これを保留し、当面の対策として業者に委託するのもやむをえない、との結論に達し、他に有力な処分候補地もないため、丸徳に委託する方針を決定し、同月二〇日の庁議において、丸徳から提出された事業計画見積書を検討し、見積額の二、九九〇万四、〇〇〇円が市予定価額の二、六八三万九、〇〇四円を上回つていたので、丸徳との間で減額を交渉し、結局二、三〇〇万円で受託する旨の内諾を得て、昭和四七年四月一日、本件契約を締結したものである。

2 請求の原因2は認める。

3 請求の原因3について

(一) 同(一)は認める。

(二) 同(二)の地方自治法二三四条、同法施行令一六七条の二の規定の趣旨は認める。

(三) 同(三)のうち、清水市宍原地区に岩本清江所有の山林が存在すること、岩本商店が右山林を処分地として原告ら主張の業務を行つていることは認め、その余は争う。

(四) 同(四)のうち、被告市長が丸徳に対して内密かつ特別に指導を実施したことは否認し、その余は争う。

(五) 同(五)は争う。

(六) 岩本商店の処分地は、丸徳の処分地に比較して余りにも狭小であつて、市営処理場からの排出物を処分する能力がなく、しかも地形的に川沿いであるため、従来からその投棄処分が河川の汚染源になることが指摘されていたので、被告市長としては、倒底岩本商店を受託の適格者と認めえなかつたものである。

4 請求の原因4について

(一) 同(一)の法および令の趣旨は認める。

(二) 同(二)について

(1) 同(1)のうち、丸徳の代表取締役である内田が清水市宍原字大内沢一八二八番畑七一四平方メートルおよび同字一八二九番畑一、二二三平方メートルを買受け、昭和四六年一一月二五日その所有権移転登記手続を経たことは認め、その余は争う。

(2) 同(2)のうち、丸徳が原告ら主張のとおり設立された有限会社であること、昭和四六年一一月三〇日に定款を変更して「廃棄物の処理および清掃に関する事業」を営業目的に加えたことは認め、その余は争う。

(3) 同(3)は認める。

(三) 請求の原因4の(三)は争う。

(四) 内田は、本件契約およびその下交渉とは無関係に、木材置場とするため、昭和四三年ころから清水市宍原字大内沢に順次土地を取得していたものである。すなわち、

(1) 別紙目録(一)記載の土地については、昭和四三年九月三〇日にこれを買受け、同年一〇月一日にその所有権移転登記手続を経、

(2) 同目録(二)記載の土地については、昭和四四年六月二五日にこれを買受け、同年九月九日にその所有権移転登記手続を経、

(3) 同目録(三)記載の土地については、昭和四六年四月七日にこれを買受け(但し、登記簿上は農地法による知事の許可を受けた日を登記原因の日付とする。)、同年一一月二五日にその所有権移転登記手続を経

たものである。

また、内田は、杉山宰の紹介により、大石保久に昭和四七年中約六カ月間廃棄物の一部の運搬を下請けさせ、その間杉山に面倒代として毎月三万円を支払つたことはあるが、杉山をして一般廃棄物の運搬を一括下請負いさせたことも、ダンプカー等三輛を購入させたこともない。

丸徳は、昭和四六年九月から、宍原地内の内田の所有地を利用して産業廃棄物の運搬および処分を始めたので、法にもとづき静岡県知事の許可を受けるため、前記定款変更をしたものであり、本件契約締結時までに短期間とはいえ廃棄物処理の経験があり、またこれに必要な設備、器材、人員を有し、特に代表者たる内田所有の広大な処分地を利用しうるという財政的基礎があつたものである。

さらに、丸徳が産業廃棄物の無許可投棄により送検されたことについては、静岡県の行政事務の怠慢にもその原因があり、丸徳のみの責任と言い切れない面がある。すなわち、法は昭和四五年一二月二五日に公布され、九カ月以内に施行されることになつていたため丸徳は昭和四六年九月中に清水保健所に許可申請書を提出したが、県の事務処理体制の不備を理由に保留され、同年一二月一日にこれを修正した申請書を提出したが、県の体制が整備されるまで保留され、昭和四七年六月一九日にようやく正式申請として受理され、同年九月二一日に許可を受けたものであり、許可申請がすみやかに処理されていれば、違反に問われることはなかつたのである。

5 請求の原因5は左記主張に反しない限度で認める。

原告ら主張の本件契約の更新は、単なる更新ではなく清水市において一年毎に受託者としての適否を審査し、市議会の議決による予算措置を講じてその都度契約を締結するものであり、契約条項違反があれば当然契約は解除され、さらに締結されることもないのである。

被告市長が現在まで丸徳との間に随意契約をくり返してきたのは、丸徳に不適格性がなく、かつ他に適当な処理業者もなかつたためである。

6 請求の原因6は争う。

第三証拠<省略>

理由

一  被告が清水市の市長であり、被告市長が、昭和四七年四月一日、同市を代表して、丸徳との間に、本件契約を締結したこと、原告らが同市の住民であり、同市監査委員に対し、本件契約の是正およびその執行の停止のために必要な措置を講ずべきことを請求したこと、および、同監査委員が、昭和四八年一月一三日付で、右措置請求はその必要が認められない旨の監査結果を原告らに通知したことの各事実は、当事者間に争いがない。

二  本案前の答弁1について

本訴は、地方自治法二四二条の二第一項一号にもとづき、原告らが、前記監査の結果に不服があるとして、裁判所に対し、前記請求に係る違法な行為につき、訴をもつて被告市長に対する当該行為の差止めの請求をしたものであるが、同条二項一号によれば、右の場合には、当該監査の結果の通知があつた日から三〇日以内に訴を提起しなければならない、とされているところ、成立に争いのない乙第一八号証の一ないし五、第二九号証の一三、二三および弁論の全趣旨ならびに当裁判所の職権調査の結果によれば、原告ら九名のうち、原告堀俊雄、同長島博通、同内藤光男、同北村修治、同永田広太、同大月久男に対しては昭和四八年一月一四日に、同青木重雄に対しては同月一三日にそれぞれ右監査の結果の通知がなされたことが認められ、かつ本訴が同年二月一四日に提起されていることは記録上明らかであるから、右各原告らは、出訴期間内に本訴を提起しなかつたものというべきであるところ、右出訴期間は、同条三項により不変期間とされているが、右期間の不遵守が右各原告らの責に帰すべからざる事由によるものであることおよびその追完がなされたことは、証拠上認められないので、右各原告らの訴は不適法といわなければならず、却下を免れない。

三  本案前の答弁2について

1  原告らの本訴請求は、本件契約が違法であることを理由に、被告市長に対し、本件契約と一体をなす附属覚書にもとづいて順次更新された結果現存している昭和五〇年四月一日付の委託契約上の権利の行使および義務の履行の差止めを求めるものであるが、成立に争いのない乙第三、第四号証の各二、第二六ないし第二八号証によれば、本件契約およびその後に被告市長と丸徳との間になされた委託契約の各締結年月日、委託期間および委託費用は、左記のとおりであることが認められ、形式上右各契約は相互に独立に委託期間および委託費用を定めているものということができ、本件契約の違法からただちにその後締結された契約上の権利の行使および義務の履行の差止めを導き出すことは困難といわなければならない。

締結年月日 委託期間 委託費用

(一)  昭和47年4月1日 同日から昭和48年3月31日まで 二、三〇〇万円

(二)  昭和48年4月1日 同日から同  年9月30日まで 一、一五〇万円

(三)  昭和48年10月1日 同日から昭和49年3月31日まで 一、六三〇万円

(四)  昭和49年4月1日 同日から昭和50年3月31日まで 三、九〇〇万円

(五)  昭和50年4月1日 同日から昭和51年3月31日まで 四、二〇〇万円

2  しかしながら、成立に争いのない乙第三号証の二によれば、本件契約と附属覚書とは、いずれも昭和四七年四月一日付の書面をもつて締結されており、両書面の間には、被告市長の職印および丸徳の代表取締役印によつて契印がなされていることが認められ、また附属覚書一項によれば、被告市長は、丸徳の契約不履行または事情の変更により本件契約が解除されない限り、昭和五二年三月三一日まで本件契約を更新することができるものとされていることは当事者間に争いがなく、さらに証人内田貴(第一回)、同大塚央二の各証言によれば、清水市は、本件委託業務が遂行される場合には、処分地に約七〇〇万円の費用を要する水路の保全工事を施さなければならず、本件委託業務が一年間で打切られると、右工事に投じた費用が大半無駄になつてしまうため、当市当局者は、本件契約の締結に際して丸徳に対し、内田所有にかかる処分地が同市営の前記処理場から排出される残廃物の量からみて向後五年間は利用可能と推定されることを理由に、同期間中は右残廃物の処理業務を継続して受託してほしい旨を申入れ、丸徳の代表者内田も、経済変動等を加味しつつ逐年委託条件を改定してゆく便宜上本件契約上の委託期間は一年としながらも、右処理業務を五年間継続して受託すること自体には異議のなかつたこと、そして、かかる両当事者の事情が附属覚書締結の動機となつていたことが認められ、加えて成立に争いのない乙第三、第四号証の各二、第二六ないし第二八号証によれば、前記(二)ないし(五)の各委託契約は、委託期間および委託費用を除くほか、本件契約書面とほぼ同一形式・同一文言の書面を用いて締結されているうえ、その委託期間の始期をいずれも直前の委託契約の委託期間の終期の翌日として各委託期間の間に時間的空隙を生じないように配慮していることが認められ、以上を総合すると、本件契約と附属覚書とは、実質的に一体をなすものと解され、また本件契約と前記(二)ないし(五)の各契約とは、建物の賃貸借関係において、当初の契約により定められた家賃を逐年改定する便宜上多くの賃貸借契約が一年毎に締結されているのと同様に、実質的には、当初の契約と更新された契約という関係にあるものと解される。

3  してみると、本件契約の違法を理由に、本件契約上の権利を行使し義務を履行する行為の差止めを求める方法として、現存する更新された契約上の権利の行使および義務の履行の差止めを請求することは、現存契約に本件契約の違法が承継されている限度においては許されるものと解すべきであるから、本訴請求がそれ自体として不適法になるものではない、と解される。

4  もつとも、住民訴訟の対象となるのは、監査請求に係る事項に限られるから、本訴の審理対象は、本件契約およびこれと一体をなすものと解される附属覚書の違法に限られ、更新された各契約につき後発的に生じた独自の違法は審理対象にならない、という手続面からの制約はある。

5  しかし、前述のとおり、本訴は、原告漆畑益己、同金沢忻二(以下、便宜上「原告ら」という。)の関係では一応適法と認められるので、以下本案につき判断する。

四  請求の原因3について

1  本件契約が地方自治法二三四条所定の随意契約の方法によつて締結されたものであることは当事者間に争いがない。

そして、同法二条により、地方公共団体が法人とされ、普通地方公共団体がその事務を処理する広範な権限を与えられているところからすると、普通地方公共団体は、右事務の処理に必要な範囲内において、広く私法上の権利義務関係の主体となる能力(権利能力)を有し、かつ右関係の発生・変更・消滅の原因となる法律行為をなす能力(行為能力)を有するものと解され、法令上特に制限されない限り、右事務の処理に必要な私法上の契約(随意契約)を締結することができるものと解される。

しかるに、同法二三四条一項は、売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約またはせり売りの方法により締結するものとする、と規定し、同条二項は、前項の指名競争入札、随意契約またはせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる、と規定し、これを承けた同法施行令一六七条の二第一項は、随意契約によることができる場合として、一号から六号までの場合を掲げ、しかも右六つの場合は規定の形式上限定的に列挙されたものと解される。そして同法二条一五項は、地方公共団体は法令に違反してその事務を処理してはならない、と定め、同条一六項は、前項の規定に違反して行つた地方公共団体の行為は、これを無効とする、と定めている。

ところで、地方自治法が、随意契約に対してかかる厳格な制限を加え、その違反に対して当該契約の無効という強い効果を付した理由は、地方公共団体がその事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない、とする同法二条一三項の趣旨と地方公共団体の事務の公共性とに鑑み、公有財産に関する住民の経済的利益を確保しかつ処分の公正を期するため、他の締約方法に比べ、情実に左右され易く、公正を害する虞れの大きい随意契約の方法によることのできる場合を可及的に制限しようとしたものと考えられる。

しかしながら、前記六つの場合のうち、一号ないし四号の各場合については、規定の文言が必ずしも明確かつ一義的でないため、多かれ少なかれ目的論的な解釈が必要となつてくるところ、右立法趣旨に鑑みれば、結局、公有財産に関する住民の経済的利益が確保され、かつ処分の公正が害される虞れがない、といえるか否かが、随意契約の方法によることの可否を決定する実質的な基準と考えられ、このことは、当該契約が右各号の要件に該当するか否かの判断に際し十分に考慮さるべきである、と考えられる。

2  本件契約の成立経緯

成立に争いのない乙第一二号証の一、二、第一七号証、および乙第三〇号証のうち朱色で<2>高橋字郷東山と書込んだ部分以外の部分ならびに証人大塚央二の証言およびこれによつて成立の認められる乙第五号証の一、二によれば、

(一)  清水市は、かねて同市八坂町所在の清掃事務所内に設置された塵芥処理場および同市堀込所在の化学処理場を市営とし、前者において市内より収集した塵芥の焼却または破砕処理を、後者において市内より収集したし尿の処理を行つてきたが、右処理により一日当り前者においては約五〇トンの、後者においては約二〇トンの残廃物が日曜日を除き毎日排出されるため、これを同市北脇所在の約四、七〇〇平方メートルの民有地および右塵芥処理場の脇にその拡張用地として買受けた約三、三〇〇平方メートルの市有地に振分けて埋立処分してたこと

(二)  しかし、昭和四五年一二月の次年度予算編成時においては、昭和四六年一杯で右両処分地が飽和状態となり使用不可能となることが予想されたため、同市当局者は、同年四月六日、被告市長ら出席のうえ庁議を開き、右清掃事務所の北方に近接する郷東山所在の窪地八、六八一坪(二八、六四七平方メートル)を清水市開発公社において買収し、これを新たに処分地とする計画を立てて、関係土地所有者との間の買収交渉に入つたが、価格の点で難航し、早急に解決する見通しが困難となつたこと

(三)  そこで、右交渉と併行して、右清掃事務所長が中心となつて同年夏ころから他の候補地を探すこととなり、同事務所の近くから遠くへと順次市内を物色した結果、同年九月ころ、同事務所より約二〇キロメートル離れた宍原地区に適地を発見したため、同市当局者は、同年一〇月ころその旨を被告市長に報告し、被告市長は、同年一一月初旬、助役、収入役、開発部長らを伴つて同地を視察したこと

(四)  右視察の結果、同地が処分地として良好であると判断されたため、同市当局者は、同市開発部において、これを買収すべく調査したところ、同地は既に内田貴がこれを買受けていたことが判明したので、同人に対しこれを買収したい旨申入れたところ、同人から、同地は自己の経営する丸徳の廃棄物処理用地としてこれを利用するつもりであり、売却する意思はない旨の返答を受け、かえつて、丸徳に前記市営処理場から排出される残廃物の運搬および処分を委託してほしい旨の申入れを受けたこと

(五)  そこで、同市当局者は、丸徳に事業計画見積書を提出させたうえ、同年一二月九日、被告市長、助役、収入役総務部長、財政部長出席のうえ庁議を開き、丸徳への委託の可否を検討した結果、郷東山の早期買収が困難であるため一時これを保留し、当面の対策として処理業者に委託するのもやむをえない、との結論に対し、さらに丸徳から提出された見積書を検討したところ、一年間の総事業費が合計二、九九〇万四、〇〇〇円と計算されていたが、内田所有地を処分地とするためには、市として独自に水路の保全工事を施す必要があるため、右金額をそのまま承認することは適当でないと判断し、市独自に県の設計基準によつて試算することとしたうえ、丸徳との具体的な締約交渉を進めることを決定したこと

(六)  右試算の結果が二、六〇〇万円余りであつたため、同市当局者は、丸徳との間で、委託費用の減額を交渉した結果、丸徳から総額二、三〇〇万円で受託する旨の内諾を得たので、同年一二月、昭和四七年度予算要求に際し右委託費用を予算案に掲げ、昭和四七年三月一八日の定例市議会において同予算が可決された後、同年四月一日被告市長が丸徳との間に本件契約を締結したこと

の各事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない

3  本件契約の条件

清水市宍原地区に岩本清江所有の山林一、二二六平方メートルが存在し、これを処分地として岩本商店が廃棄物の収集、埋立処分を行つていることは当事者間に争いがないが、2に前掲した証拠のほか、成立に争いのない甲第七号証、乙第一九号証の一ないし一三、弁論の全趣旨により原本の存在および成立の認められる乙第一六号証ならびに証人内田貴(第一回)、同岩本彊の各証言を総合すると、

(一)  内田貴は、昭和四三年秋から昭和四六年秋ころまでの間に、清水市宍原地区に、別紙目録(一)ないし(三)記載の一三筆の土地を買受けていたこと

(二)  右土地は、国道五二号線に沿つた公簿面積合計七五、八一三平方メートル(二二、九七三坪)にのぼる土地で、全体としてほぼ一体をなしており、昭和四六年九月ころ同国道より直接これに出入りするための通路が開設されたため輸送の便が良く、また当時右土地のうち国道敷より低い部分の面積は約三、〇〇〇坪であり、右部分については地形的に国道が堰堤の役割を果すため排水が直接河川に流下せず、従つて廃棄物の処理に適し、さらに山梨県境に近い山奥にあるため二次公害発生の虞れも少なかつたこと

(三)  丸徳は、内田から右部分を賃借し、昭和四六年九月ころから、右部分を処分地として廃棄物の処理業を始めていたが、従来運送関係の営業をしていたため、従前からダンプカー、ブルドーザーなどを保有していたほか、本件契約上の委託業務処理のため新たに四トン車三輛を購入して右業務の開始に備えたこと

(四)  昭和四六年九月当時、宍原地区において丸徳のほかに廃棄物の処理業を営んでいた者は岩本商店のみであつたところ、岩本商店は、昭和四三年六月ころから廃棄物の処理業を始めたが、当初は処分地を有せず、昭和四六年六月、岩本清江名義で宍原二〇五番一山林一、二二六平方メートルを買受け、以後これを処分地として廃棄物の投棄もしくは焼却処理をしていたこと

(五)  同処分地は、国道五二号線に沿つておらず、これから芝川に通ずる道路と山との間にある約四〇〇坪程度の土地であり、年間約二二、〇〇〇トンも排出される同市の残廃棄物を埋立処分する能力はなく、また、一端が畔沢になつているため投棄された廃棄物が河川に流出する虞れがあり、特に昭和四六年一二月一四日には、芝川町から清水市に対し、書面をもつて、同処分地に堆積された廃棄物が悪臭を発するうえ下流の稲瀬川に流出する虞れがある旨の苦情が述べられていること

(六)  岩本商店は、昭和四六年当時、二トン車三輛および平ボデー車一輛を保有していたが、前記芝川に通ずる道路より同処分地に出入りするための通路の幅員は約三メートルであるため、四トン車を通行させることができなかつたこと

(七)  清水市が昭和四六年度に同市営処理場から排出された残廃物を独自に処理するのに要した費用は合計三、〇一九万二、三三一円であつたが、右処理を丸徳に委託することにより、昭和四七年度においては費用を二、三〇〇万円に軽減することができたこと

の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

4  原告らは、被告市長は、昭和四六年夏ころから、丸徳の代表者である内田との間で、内密に廃棄物の搬送および投棄処理の請負方を折衝し、内田をして宍原地内に投棄埋立処理用地を求めさせる等してその準備行為に着手させた、と主張し、証人小沼光男の証言およびこれによつて成立の認められる甲第一〇号証ならびに原告堀俊雄本人尋問の結果中には右主張に沿うかのような部分があるけれども、右部分はいずれも第三者からの伝聞もしくは再伝聞あるいは単なる噂を内容とするものであつて、それ自体として証明力に乏しいのみならず、他の関係証拠とも符合しないので措信しがたい。

かえつて、成立に争いのない乙第七号証の一、二、第一九号証の一ないし一三、証人内田貴の証言(第一回)およびこれによつて成立の認められる乙第六号証の一ないし三被告本人尋問の結果によれば、被告市長と内田とは、昭和四六年一一月の現地視察の際に遭遇するまでは個人的に面識がなかつたこと、また市営処理場からの残廃物の処理についての委託契約交渉は、同月ころ丸徳から清水市に対し右処理を委託してほしい旨の申入れがなされるまでは、同市と丸徳との間にも、被告市長個人と内田個人との間にもなされていなかつたこと、さらに内田は、右交渉に入る三年以上も前から宍原地区に順次土地を買受けていたものであり、しかもその大半を占める別紙目録(一)記載の土地(公簿面積合計七一、一〇八平方メートル)は、昭和四三年九月にこれを買受け、同年一〇月一日にその所有権移転登記手続を経ているほか、最後に買受けた同目録(三)記載の土地(同三、九七〇平方メートル)も、既に昭和四六年四月七日に望月正一らから代金三五〇万円でこれを買受け、同日内金五〇万円を支払い、うち同(1)・(2)記載の土地については同年八月六日に、同(3)記載の土地については同年九月六日にそれぞれ農地法五条による許可申請手続をなし、前者は同月二九日に、後者は同年一〇月二九日にそれぞれ右許可を受け いずれも同年一一月二五日にその所有権移転登記手続を経たことの各事実が認められる。

5  以上の事実によれば、昭和四六年当時においては、宍原地区以外に市営処理場から排出される残廃物を埋立処分するに適した場所がなく、また同地区においては、丸徳または岩本商店に右処分を委託する以外に適当な方法がなかつたものというべきであるところ、両業者の間には、その使用可能な処分地の面積において大幅な開きがあり、後者には右残廃物を処分する能力がなかつたものということができるうえ、本件契約の締結経緯には特に情実に左右された形跡はなく、その条件も、委託費用が市独自に処理するのに必要な費用を約七〇〇万円も下回るのみならず、静岡県の設計基準により計算された費用をも三〇〇万円以上下回る有利なものであるということができるから、本件契約締結に当り被告市長が随意契約の方法によつたことは、公有財産に関する住民の経済的利益を害せず、処分の公正を害しないものというべきであり、以上を総合考量すると、本件契約は、地方自治法施行令一六七条の二第一項一号の「その性質または目的が競争入札に適しないもの」に該当し、地方自治法に違反しないものというべきである。

6  従つて、請求の原因3の主張は理由がない。

五  請求の原因4について

1  法六条は、市町村は、その区域内における一般廃棄物の処理について一定の計画を定め、これに従つて一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集し、運搬し処分しなければならない旨規定し、その三項において、市町村が行うべき一般廃棄物の収集、運搬および処分に関する基準ならびに市町村が一般廃棄物の収集、運搬または処分を市町村以外の者に委託する場合の基準は、政令で定める、と規定し、これを承けた令四条は、右委託をする場合につき、一号から九号までの詳細な基準を掲げ、もつて、一般廃棄物に関し市町村処理の原則を定めるとともに、右処理に関する事業の能率的な運営のため、これを市町村以外の者に委託することを許し、同時に右委託処理の適正な実施のため、受託者の能力および資格ならびに委託契約の内容につき、厳格な要件を定めている。

そして、法および令の趣旨からすると、令は、受託者が当初から右基準に適合しないときは、これを相手方として委託契約を締結すべきでない、とするとともに、締約後受託者が右基準に適合しなくなつたときは、右委託処理の適正な実施のため必要があると認められる限りにおいて、右契約を解除すべきであると、とする趣旨に解される。

そこで、以下本件契約につき、原告ら主張の違法事由について個別的に検討してゆくこととする。

2  まず、原告らは、丸徳は、本件契約締結に先立ち、杉山宰との間に一般廃棄物の運搬の一括下請契約を結び、これを実施させたものであるから、令四条四号の基準に違反すると 主張する。

ところで、令四条四号は「受託者がみずから受託業務を実施する者であること」と規定しているが、その趣意は受託者が受託業務を第三者に下請負いさせるときは、ややもすれば、受託者が中間利益を搾取するため受託業務の質が低下し、また業務遂行責任の所在が不明確になる虞れがあるので、原則としてこれを禁止し、もつて委託処理の適正な実施を図つたものと解される。

しかしながら、廃棄物の処理業務は、単純な労務の提供にとどまるものではなく、廃棄物の収集・運搬・処分の各段階において、設備・器材・人員の合理的な配分とその効率的な活用とを必要とする一種の事業活動であるから、ある受託者が右処理業務を受託した場合に、これに必要な設備・器材・人員の全てを常に自己の責任と負担において維持しなければならないとすることは、受託者が事業活動の拡大縮小に敏速に適応し、投下資本を効果的に運用することを困難ならしめ、ひいて右処理業務の能率的な運営を阻害し、前記委託処理の趣旨を没却する虞れなしとしない。

このようにみてくると、令四条四号は、受託業務の下請負を一律かつ全面的に禁止したものと解すべきではなく、設備・器材・人員の合理的な配分とその効率的な活用のため必要がある場合においては、委託処理の適正な実施という目的に背馳しない限度において、受託業務の一部を第三者に行わせることを許しているものと解すべきである。

本件についてこれをみると、成立に争いのない甲第九号証の一、二、証人内田貴の証言(第一、第二回)およびこれにより原本の存在および成立の認められる乙第二四号証の一および同号証の二ないし二五の各一、二ならびに証人杉山宰の証言を総合すると、

(一)  丸徳は、従前からダンプカー、ブルドーザーなどを保有していたが、本件契約交渉が具体化するに従い、本件契約上の委託業務を処理するためには、処分地および市営処理場の立地条件から、新たに四トン車三輛を購入する必要があり、また宍原地区住民との関係を円滑にするためには、右四トン車三輛による運搬作業に従事する者を同地区から採用するのが適当であると判断したため、丸徳代表者内田は、旧来の交友で同地区に在住する杉山宰に右運搬作業に従事する者の紹介を依頼したところ、宍原に在住し元運転手をしていた大石保久を紹介されたこと

(二)  そこで、丸徳は、大石との間で 一輛当り報酬月額二二万円、大石を含む運転手三名の労賃ならびに右三輛の燃料費は大石の負担、右三輛の月賦購入代金支払いのため丸徳が振出した約束手形合計二四通は毎月支払期日が到来次第大石がこれを決済する、という条件で右三輛の四トン車による廃棄物の運搬の下請負契約を結ぶとともに、丸徳が加入し内田が代表理事をしている静岡県貨物運送協同組合を通じて右三輛の四トン車を購入するとともに、大石の励みとするためその使用者名義を大石保久として昭和四七年三月に自動車登録をし、同年四月から同年八月まで、本件契約上の委託業務のうち右三輛の四トン車による廃棄物の運搬業務を大石に行わせたうえ、同期間中前記杉山に連絡費ないし面倒代として毎月三万円を支払つていたこと

(三)  右三輛の四トン車以外の車輛による廃棄物の運搬および処分地に搬入された廃棄物のブルドーザーによる埋立作業は、右期間中も、丸徳の車輛および従業員によつて行われ、また、同年八月末ころ大石が右下請負をやめた後は、全ての作業が丸徳の従業員および車輛によつて行われるようになり、右三輛の四トン車の購入代金手形の決済も丸徳によりなされるようになり、またその使用者名義も丸徳に改められたこと

の各事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

そして、以上の事実によれば、丸徳は、宍原地区における受託業務の円滑な遂行のため、本件契約上の委託業務の一部を第三者に下請負いさせたものであるが、右下請負は右業務の全部または重要な一部を下請負いさせたものとはいいがたく、また結果的に僅か五カ月という短期間で解消されているから、委託処理の適正な実施という目的に背馳しないものとして、許されるものというべきである。

また、仮にこれが許されないものであるとしても、右違法は、本件契約上の委託期間内に解消されているから、その後更新された現存の委託契約にまで承継されているとはいいがたいので、これをもつて、現存契約上の権利の行使および義務の履行の差止めを求めることはできないものというべきである。

よつて、前記原告らの主張は理由がない。

3  次に、原告らは、丸徳には、昭和四七年三月一日から同年九月二〇日までの間、知事の許可を受けることなく、産業廃棄物一、二二一トンを清水市宍原字大内沢の土地に投棄していた嫌疑により、同年一〇月一六日、法違反罪により送検された事実があるから、丸徳は令四条二号および三号の趣意に反する、と主張する。

そして、右事実があつたことは当事者間に争いがない。

ところで、令四条二号は、「受託者が法二五条または二七条の罪を犯して刑に処せられ、その執行を終わり、または執行を受けることがなくなつた日から起算して一年を経過していない者でないこと」と規定し、同条三号は、「受託者が法人である場合には、その業務を行う役員のうちに前号に該当する者がいないこと」と定めているが、右各号の趣意は、廃棄物の処理に関して受託者またはその業務執行者に非行のあつたことが刑事確定判決によつて明らかにされたときは、当該受託者を一般的に悪質な業者とみなしその者から一定期間市町村の委託契約の相手方となりうる資格を剥奪することにより、廃棄物の処理に関する非行の一般および特別予防に資するとともに、具体的な委託業務が適正に処理されるよう図つたものと解される。

本件においては、原告らが監査請求をした時点においては、丸徳が法二五条または二七条違反罪により刑に処せられた事実はなかつたから、本件監査請求の範囲内においては、本件契約は右各号に直接には違反していないものというべきであるが、原告らの主張に鑑み、さらに丸徳が右各号の趣意に反するか否かにつき検討すると、成立に争いのない乙第二〇号証および証人内田貴の証言(第一回)によれば、丸徳およびその代表取締役内田は、昭和四九年三月一一日、清水簡易裁判所において、産業廃棄物処理業を行うのに必要な知事の許可を受けることなく、昭和四七年三月ころから同年七月ころまでの間、産業廃棄物を収集し、これを運搬して投棄処分した、との事実により有罪の判決を受け、これが確定していることが認められ、本件契約締結当時、丸徳には法二五条違反の行為があつたものと認むべきであるが、他方、法は、その附則一条において、その施行期日を公布の日(昭和四五年一二月二五日)から起算して九月をこえない範囲内において政令で定める日から施行する、と規定し、これを承けた昭和四六年政令二一八号は、法を昭和四六年九月二四日から施行しているところ、前掲証拠および成立に争いのない乙第八号証によれば、丸徳は、従来からの営業である貸物の保管および運送業の必要上、荷物の解梱により生ずる木屑類をその営業の範囲内で運搬し、投棄処理してきたが、法の施行によりこれが産業廃棄物処理業の範囲に入ることとなるため、丸徳代表者内田において、早くから、これを行うのに必要な静岡県知事の許可手続をとるべく準備していたが、同県の法施行細則の制定・施行が遅れたため、丸徳の許可申請は、ようやく昭和四七年六月一九日に受理され、同年九月二一日に右許可がなされたことが認められ、また前記判決も、丸徳および内田の両名に対し、それぞれ罰金二万円、執行猶予一年という、法二五条違反罪の法定刑に比して相当軽い刑を言渡していることが認められ、以上を総合すると、丸徳および内田には、令四条二号および三号の趣意に反するほどの悪質性はなかつたものというべきである。

よつて、前記主張も理由がない。

4  最後に、原告らは、丸徳の設立目的には一般ならびに産業廃棄物の処理業は含まれておらず、丸徳には、これを行うに足る設備・器材・人員および財政的基礎がなく、またこれを行つた経験もなかつたから、丸徳は、令四条一号の基準を満たさない、と主張する。

そして、丸徳が昭和四〇年七月一〇日、貨物の保管業務不動産業ならびにこれに附帯する一切の業務を営むことを目的として設立された有限会社であり、昭和四六年一一月三〇日、定款を変更して「廃棄物の処理および清掃に関する事業」を営業目的に加えたことは、当事者間に争いがない。

ところで、同号は、「受託者が受託業務を遂行するに足りる設備・器材・人員および財政的基礎を有し、かつ、受託しようとする業務の実施に関し相当の経験を有するものであること」と規定しているが、1に前記した法および令の趣旨に照らせば、受託者は、遅くとも委託契約締結時には右基準に適合していなければならないとともに、委託契約締結後も右基準に適合していることを要すると解すべきである。

本件についてこれをみると、証人内田貴の証言(第一回)によれば、

丸徳は、

(一)  内田から同人所有にかかる別紙目録(一)ないし(三)記載の土地のうち廃棄物の埋立処分に使用可能な約三、〇〇〇坪の部分を賃借し、これを処分地として昭和四六年九月ころから廃棄物の収集・運搬・処分を業として行つていたこと

(二)  右開業当時、廃棄物処理業に投入した車輛は、四トン車約二輛、八トン車一輛であり、従事させた人員は約八名であつたが、その後本件契約締結交渉が具体化するに従い、昭和四七年三月ころ、新たに四トン車三輛を購入したこと

(三)  本件契約上の委託業務には、少なくとも、右四トン車三輛および八トン車一輛ならびにブルドーザー二台を使用していること

(四)  法施行以前から、従来の営業である貨物保管業および運送業の必要上、荷物の解梱により生ずる木屑類をその営業の範囲内で運搬し、投棄処理してきた経験を有すること

の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

以上の事実によれば、丸徳は本件契約締結当時令四条一号の基準に適合していたものというべきであり、またその後も右基準に適合しているものというべきであるから、原告らの前記主張も理由がない。

5  従つて、請求の原因4の主張は理由がない。

六  よつて、原告堀俊雄、同長島博通、同内藤光男、同永田広太、同青木重雄、同北村修治、同大月久男の訴を却下するとともに、その余の原告らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松岡登 人見泰碩 渡辺壮)

別紙<省略>

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